恋文日和 004 please your eyes on me 蔵馬から


今は魔界の夜中…一応、時計は2時過ぎを指しているところ。

仕事だからと言って君には先に寝てもらったけれど、オレは思うところあって起きている。

躯のところへ行って何をしているか、君には具体的に話していないね。

いずれ君自身の身に起こることだから、ちゃんと話すけれど…

手術の依頼はやはり少し難しいことになりそうだ。

君自身に出される、手術を受けるための条件がどんなものなのかは、オレは知らない。

やっぱりオレの身勝手が過ぎるだけだったのかな。

この手紙は、君の目が見えるようになったら、君に渡すつもりでいます。

その前に字を覚えなくちゃね。

ひらがなで書いた方がよかったかもしれないと、今になって気がついた。

君がオレほど興奮した状態にないことに、オレは実は少し焦っているんだ。

君自身は本当は、あまり手術を望んでいないのかもしれないね。

会いたいと思うのは、オレの一方的な願いではないと信じるとしても。

魔界も変わったなと、一応ここを故郷のひとつと言えるから、そう思うよ。

今周りはとても静かなんだ。

の寝息と、ペンを走らせる音だけが聞こえる。

このままの時間がずっと続けばいいなんて柄にもないことを思ってしまう。

わがままはわかっていて君を連れてきたんだ。

早く会いたいよ、

君の目がオレをとらえる日が、とにかく早く来ればいいと、最近はそんなことばかり祈ってる。

ごめんね、オレは人よりスケールの大きなわがままに君を付き合わせているだけなのかも。

障気に身体が蝕まれていたりはしないかな?

君は強い人だから、それこそオレみたいな嘘に慣れた人格よりはよっぽど強い人だから、

痛くてもつらくてもオレに言おうとしないことの方が多いだろう。

嘘も隠し事もないけど、とりたてて伝えようともしてくれない。

黙っていることは悪じゃないからね。

オレは頼りがいのない男かな?

そういう意味ではきっとないんだろうね、君は自立心の強い人でもあるから。

わかっているから、心配になるよ。

君の目が見えるようになったあとのことがね。

尚更オレの手を借りずにひとりで立とうとするんじゃないかって。

不安が付きまとっていて、本当はいても立ってもいられないような感じで、いつでも焦っているんだけど。

今を大事にしなきゃととても思うようになったよ。

こんなことを考えていると君が知ったら怒るかもしれないけど、

君が光を知らない時間はたぶん、あとわずかだ。

その時間を、オレは惜しまなければならないと、なぜかそう思うんだよ。

会えるなら会える方がいいし、視線が絡む方がいいし…

同じものを見て言葉を交わせる方がいいと、それは本心からそう思うんだけど。

不思議な感覚なんだ、説明するのがすごく難しい。

ただ、漠然としたというか、とにかく根拠というもののない不安のように思うんだ。

オレはオレの望みのために懸命にかけずり回っているだけで、

君のことを最近ずっとかえりみていないような気がするよ。

いつも笑っていてくれるけど、それはオレに対する気遣いなんじゃないのかな、とかね。

君の心からの表情を、オレはどれくらい見たことがあるんだろう。

、離れたくないよ。

この不安がいつか必ず拭い去ってもらえるものと、今は一応、希望を持って。

君がオレに何も言わないように、オレもこのことはここに書くだけにしておこう。

明日の朝、目を覚ましたそのときから、オレは不安なんて何もないように振る舞うだろう。

でも、妖気や気配は見ることのできる君には、伝わってしまうのかもしれないね。

なんだか不公平にも思えるけど。



この手紙が、君自身の目に触れ読まれたとき、ただの笑い話で済んでしまうことを祈ってるよ。

今と何も変わらず、君を愛することのできる立場にいられるように、とか、そういうこともね。

君からも、今と変わらない愛情を得られるように。



いつかの過去から 蔵馬より。


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