恋文日和 002 年下彼氏の蔵馬から年上彼女の


さん、おはよう。

今は会社ですか?

オレは今学校にいます。

古文の授業中なんだけど、眠いんだ。

前に言ったけど、古代の宝具なんかを盗むのが仕事だったから、古い言葉は得意なんだ。

もうとっくに知り尽くしているものをもう一度やり直すのって、退屈だね。

大体の授業がそうなんだけどね。

今日はなんでかわからないんだけど、妙にさんのことが思い出されて仕方なくて。

だから、教科書に隠れてノートを取るふりをして手紙を書いています。

ルーズリーフの便箋で申し訳ないけど。

一応、オレは受験生というやつで、卒業したあとのことを考えなきゃいけないんだ。

みんなオレが進学するものと思ってるみたいなんだけど、

オレ自身にはあんまり、卒業後もなにかを学ぼうっていう意欲はなかったりする。

この間ね、義父の会社に遊びに行ったんだ。

それで少し仕事を手伝ったんだけど…結構面白かったよ。

たぶんそれはもの珍しかったからで、実際の社会人ってこんなに甘いものじゃないんだと思う。

さんはいつもオレと一緒にいるときに仕事の話なんかしないけど、

つらかったり面白くなかったりすること、結構あるんでしょう?

気を遣ってくれてるの、知ってるよ。

自分の進路を、さんのことばかり念頭に置いて考えてるわけじゃないけど、

オレの望みはさんと同じ高さに立つことなんだ。

まぁ年齢のことは置いておくにしても、

いろいろなところで、大人のさんと子供のオレがいると思うんだ。

それも悪いことではないんだけど、オレは早く大人になりたい。

さんが安心しきって甘えてくれることが出来るくらいには。

今のオレは高校生という肩書きで、子供でしょう。

中身が何千年生きていようとそれは関係ないんだ。

さんはたまにずるいよ、高校生のくせになんて言われたら、オレは黙るしかないじゃない。

心臓がばくばく跳ねているのを必死で押さえながらプロポーズしても、

本気で受け取ってはもらえないでしょ、今は。

オレは卒業したら、学校には行かないで就職するよ。

さんと同じ社会人になったら、もう子供なんて言えないでしょう。

そうしたら、さんは高校生のくせになんて言い訳はできないよ。

やっと大人と子供の壁を越えて、逃げようとするさんを捕まえに行ける。

覚悟しておいてね、さん、もう絶対逃がさないから。

ほら、オレの性格そろそろわかってきてるでしょ。

逃げようとするものって、追いかけて捕まえておきたくなるんだよ。



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