前編


たまにみんなでただ普通に遊ぶのもいいよね、と誰かが言い出して、ある休日に彼らは集まった。

男性陣…幽助と桑原だけれど、彼らがどんどんと計画を進めていったおかげで、

その日のメインはバーベキュー大会ということになっていた。

…食事がなぜ大会という名称なのかは、決めたふたりにすらわかっていない。

霊界からも抜け出してくる奴がいるから、一応気兼ねなく騒げる幻海邸に会場を決める。

スーパーマーケットでこれでもかというほど食材を買い込んで、

それでもなんだか買い足りない気がした一同は、途中でコンビニエンスストアに転がり込んだ。

荷物持ちの男性陣は、今回の買い物の主導権を握っている。

今日ばかりはもてなされる側と、女性陣は雑誌コーナーでファッション雑誌の最新号を覗き込む。

「これこれ」

幽助と桑原とはアルコールの販売コーナーの前に。

未成年は禁止だけどなぁと軽く千年を生きた蔵馬は呟いてみるが、彼だって未成年だ、身体だけは。

飛影はもちろん、こんな面倒なときには顔を出さずに、美味しい場面で現れる。

コエンマはきっと、追ってくる仕事と秘書のジョルジュを振り切ってでもやってくる。

たぶん今日もそうだろう。

横目で窓際のほうを見やる蔵馬。

女性陣四人は、なんだか頭を寄せ合って同じ雑誌を一緒に見ている。

…読むだけ読んで、たぶん買いはしないんだろうなぁ。

などと思いながら、蔵馬は何気なく彼女らの声をひそめた会話に耳を澄ます。



「…水瓶座のあなたは…『束縛感のないあっさりした交際が吉。相手の言葉を素直に信じてみて。

 募集中なら、親しい仲間との集まりの中にチャンスがあります』」

  ■一同からきゃあ、わぁと歓声が上がる。

「『ラッキーアイテムはソーイングセット』、持ってる?」

「持ってます…」

「ひゃー、螢子ちゃんのためにあるような占いじゃないかー! 今日決めちゃいなよー」

「そんな、ぼたんさんったら…!!」

「でも、羨ましいです…私、自分の星座ってわかりませんもの」

「あたしもだよ。人間界のいいところのひとつだよねー」

  ■(恋占いか。可愛いな…)

「…さん? どうしたの?」

「…私、今月はダメ…」

「え、結果悪かったんですか?」

  ■一同、の持つ雑誌を覗き込む。螢子、読み上げる。

「…えーと…『誤解を生みやすい時期です。必要な言葉を省かないようにしましょう。

 しばらく距離を置くのもひとつの方法です』」

「…最後の一文が痛い…」

「『募集中の人は、今は堪え忍ぶのが吉です』…」

「あーあー、ちゃんは今日はやめといたほうがいいねぇ…」

「せっかく皆さんで集まれたのに、残念ですね…」

「…うん…今日はちょっとは仲良くなれるんじゃないかなーって思ってたのに…」

  ■、あからさまに肩を落とす。

  ■(おやおや、の想い人は今日会う中にいるのか)

  ■幽助と桑原は、アルコール選びに余念がない。

  ■ふたりを置いて、蔵馬、女性陣のほうへ近づく。

「…でも、蔵馬さんて…気づいてくれそうなのに。あいつと違って…」

  ■(…オレ??)

  ■蔵馬、思わず歩みを止める。

  ■鼓動が外まで聞こえそうなほどに急速に跳ね上がる。しかし蔵馬、冷静な表情を繕い続ける。

「…蔵馬にも女心は難しいんじゃないかい?」

「何度でもお会いして、仲良くなれればきっとわかってもらえますよ、さん」

「でもね、私は情報と調査担当の霊界探偵だから、指令でも蔵馬に会えることなんかほとんどないの…」

  ■(うわ、決定的…)

  ■嫌な気などもちろんしていない蔵馬。

  ■ごくたまに(指令関連ではあるが)に会えるときは、

   ひどく気持ちが高揚することに蔵馬は気づいていた。

  ■つとめて平静を装って、蔵馬、四人の後ろから声をかける。



「魚座はなんて書いてある?」

「「「「きゃあ!!!!!」」」」

いきなり噂の本人が現れて、四人は悲鳴とともに跳び上がる。

などは泣きそうに真っ赤な顔をしている。

「おおおおぉ脅かさないどくれよ、まったく…」

「ああ、ごめん。そんなに驚くと思わなくて。気配を消して近づくのは昔からの癖なんだ」

盗賊だったからね。

蔵馬はそう言って笑う。

「蔵馬さん、魚座なんですか?」

言葉もないを、ぼたんと螢子とが必死でフォローしている。

雪菜はなんだかにこにこしている。

「うん。三月生まれなんだ」

「遅生まれなんですね、知らなかった」

ちゃん、魚座、なんて書いてある?」

そろそろにも一言くらい言わせなければと、ぼたんは矛先をに向けた。

「え? えーと」

雑誌に目線を落とす。

皆が誌面に注目したけれど、蔵馬だけはまだ赤い顔で魚座の項目をたどるの横顔を見つめていた。

正直、占いの結果なんかどうだっていいのだ。

とちょっとでも仲良くなれる口実になるのなら、それで。

「『押し引きのバランスがポイントになります。本音で話し合うことが大切です』」

はいったん、そこで言葉を切った。

「…『募集中の人は、積極的なアプローチを。意中の相手に告白するチャンスです』」

「へぇー。それはそれは」

蔵馬は含み笑い。

は何か思うところがあったらしく、誌面を見つめたまま黙っている。

螢子とぼたんは目配せ。

雪菜は相変わらず、にこにことなりゆきを見守っている。

「…じゃあ、頑張ってみようかな」

ぽつりと呟いた蔵馬。

一同は驚きを隠せずに蔵馬をぽかんと見つめる。

までが顔を上げて。

けれど、その表情は不安げで、期待に満ちてもいる。

ぼたんが横から聞いてくる。

「…蔵馬は好きな子いるのかい?」

「ん?」

「だってこれ、恋占いですよ」

「ああ、そうだね。あ、もしかして女の子限定の占いかな?」

「…どうでしょう…」

ちょっと笑いがもれる。

蔵馬は外見から女性に間違われることも多いから。

その意味を悟って、蔵馬自身は苦笑いだ。

「好きな子ね…いるよ」

にっこりと、てらいもなにもなく言ってのける。

ぼたんが問いただそうと口を開いたとき、後ろから幽助と桑原の声がかかる。

ああもう、なんてタイミングの悪い。

ぼたんが歯がみするのに内心で苦笑しながら、蔵馬はふたりのほうへ戻っていった。



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