そのあと


「ところで、

修羅と大乱闘を繰り広げる蔵馬に、しびれを切らしてこれまたぶちキレた

「乱暴な人との約束なんか守らないから!」と鶴の一声。

激しい争いはあっさり幕を下ろした。

今は蔵馬の部屋に戻って、ミギとヒダリに負ったかすり傷の治療を受けているところだった。

はその横でクッションを抱いて、まだちょっと不機嫌そうにしている。

「その格好は?」

「え、これはミギさんとヒダリさんが…」

続けようとすると、ふたりはぱぱっと立ち上がり。

「蔵馬様、手当ての続きは様にしていただいて下さりませ!」

「おお、忙しいこと!」

言うが早いかさっさと部屋を退出してしまう。

あとには呆気にとられた蔵馬ととが残されるのみ。

「…あのふたり、なんでもすごく唐突…」

「そのようだね…」

ふたりで顔を見合わせると、ふっと吹きだしてしまう。

しばらくそうして笑ったあと。

「…あのふたりが着せたの?」

「そう、癌陀羅の民族衣装なんですって」

似合う?

そう言って微笑む恋人に、蔵馬は眩しそうに目を細めた。

「民族衣装とはまた、巧い口実をつくったな…」

「え?」

「それ、ただの民族衣装じゃないんだけど。知ってる?」

は首を横に振る。

「そう、やっぱりね」

蔵馬はまたくすくすと笑う。

「…なぁに?」

「知りたい?」

「当たり前でしょ!」

ふくれるにまたちょっと笑うと。

「…花嫁衣装だよ」

言われて、は一瞬ぽかんとしてしまう。

「まぁ、魔界では結婚式をあげる習慣もないんだけどね。一応、新婚のしるしというか」

結婚したての男女が着る衣装があるのだという。

「そんな特別な衣装を着て、修羅を相手に秘密の約束なんて言わないでほしかったな…」

蔵馬はふいとから目をそらしてしまう。

「え、えぇっ!? 修羅様にまで妬いちゃうの?」

「その呼び方もどうかと思うんだけど…」

「だって、それは」

赤くなって俯き、言葉を失う

蔵馬は横目でそんな彼女をしばらく見つめる。

その目が妬いているどころか、いつもよりもずっと優しい目をしていることに俯くは気づかない。

「ミギさんとヒダリさんは、蔵馬が帰ってくるのが楽しみって…」

言い訳のように呟くを、蔵馬はたまらず抱き寄せる。

「…蔵馬?」

「……好きだよ、

「…うん…」

しばらくそうして抱きしめあって。

「…人間界に帰ったら」

「…ん…?」

「今度は向こうの花嫁衣装を着て見せてほしいな…」

また更に赤くなったが目を伏せたのを合図に、蔵馬はに優しいキスを贈る。

そうしてそのまま甘ったるい夜が更けていく空に、幾重もの虹がまだ輝いていた。




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