およそ、

女の子

という扱いを受けていないようなクラスメイトがひとりいる。
彼女は委員長と呼ばれている。
委員長だからだ。
少し厚いレンズの眼鏡をかけていて、長い髪は左右におさげで、いつも本なんか抱えていたりする。
典型的が過ぎるくらいだ。
成績も良くて、まぁ、運動は苦手な方らしいけど、
面倒見もいいし、男女問わず、クラス中から慕われている。
女の子たちがファッション雑誌の中、めまぐるしく変わる最新の流行を追いかけるあいだに、
彼女は古き良き時代の文章をひもといていたりする。
彼女はそういう人だから、誰もそれを気にかけることはしないけれど。
洋服やアクセサリーやブランドや、メイクや靴や…そういう話題でうるさいグループの隣にいて、
彼女はひとり静かに、長い時間を経てなお愛される文章を目で追っていく。
別に違和感はない。
そういうものなのだから。
それが、このクラスの日常の風景。
体育の時間に、男子生徒と女子生徒は違う体育館に分かれて授業を受けた。
こっちはわざわざ室内で鉄棒などやらされた。
向こうはバレーボールだと誰かが言っているのをさっき聞いた。
まぁそれはどうでもいい。
鉄棒の演技もやや完璧にこなす、まぁそう難しいものではないし、
いびつな秀才を演じた方がなにかと面倒がない。
完全完璧な人間はいないらしいから、
人間にとって完璧に見えるくらい高いスキルを持っている妖怪たる自分は、とりあえず手を抜いておく。
授業を終えて教室に戻る途中、忘れ物に気付いてひとりで体育館に引き返し、
また廊下へ戻った。
なにか言いつけられたのか片づけがあったのか、委員長がひとりで歩いていた。
彼女は廊下の水道の前で立ち止まり、おさげの髪を丁寧にほどいた。
豊かな黒髪が胸元で揺れた。
眼鏡を外して、水道の蛇口をひねり、髪の毛が濡れないよう気遣いながら水を飲んだ。
喉元がこくこくと艶めかしく蠢く。
顔を上げて、水を止め、委員長は眼鏡をかける前に俺に気がついた。
半開きのままの唇は赤く濡れてつやつやとしていて、
そこから水滴があごまで伝ってぽたりと落ちる。
体育の時間に体を動かして疲労したためか、目が少し潤んでいる。
あの委員長と同じ人にはまったく見えない。
そこに確かに、たくさんの装飾を外して委員長の皮を脱いだ女性がいた。



※ここまで


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思いがけない人の思いがけない艶めかしさとか、「女」性をうっかり見てしまって、
多分女性関係も百戦錬磨でありましょう笑、蔵馬の「男」性でさえ戦慄した、みたいなワンシーンを書きたかった覚えがあります。
オリジナルでもファン創作でも、自分が無意識に書きたがる要素をあとでひしひしと思い知ったりしますが、
女の人の決して美しくもない部分、というのがそのうちのひとつに含まれるようです。
嫉妬とか虚栄心とかでぐらぐら可愛くない顔だってしていればいいよというか。
でもこれで蔵馬が恋に落ちたかどうかは少々あやしいところです。