納得いかない
「なーんかね。蔵馬ってね」
「んだよ」
「せっかく遊びに行っても一人で本読んでたりしちゃうの。私ほったらかしなの」
「…惚気か?」
「ちーがーうー」
「だってよ…彼氏のダチに彼氏の話するって…」
「ノロケじゃなかったら愚痴だよ」
「…オレがその餌食か」
「だぁって幽助って結構いろいろ見てるじゃん? 蔵馬のこともいっぱい知ってるでしょ」
「まーな…でもそれはアレだ、仲間としてってやつだ。ほどじゃねー」
「この間なんかね」
「シカトかよ…」
「やっぱり蔵馬は蔵馬で本読んでたりしてね、仕方ないから私も本読んでたのね」
「…いーじゃんか。沈黙が痛くねー仲なんだろ」
「違うってば、そういうことじゃなくて!」
「じゃあなんだよ」
「蔵馬はベッドでごろごろしてて、私床に座ってベッドの端っこに寄っかかってたのね。そしたら蔵馬ったらどうしたと思う?」
「知らねーよ」
「幽助口調冷たくない? ちょっとくらい聞いてくれてもいいじゃない」
「だー! いーから言えって!」
「なによもう。…蔵馬ね、いつの間にか寝ちゃってたんだよ。ひどくない? せっかく彼女が遊びに来てるのに!」
「オメーの望みはなんなんだよ」
「え、だから、何でもいいから…ほったらかしにすることないじゃない。男の子ってみんなそうなの?」
「…オレに聞くなよ」
「螢子ちゃんといるときとか」
「なんでここで螢子が出てくんだよ!! 関係ねぇって!」
「照れてるんじゃん」
「っせぇ!! じゃねーだろ、オメーの話だ」
「何だっていいもん、一緒にいるなら、意味ない話でも楽しいもん」
「じゃあ話しかけろって」
「私がお客様なんだよ!? なんで私が蔵馬に気ぃ遣わなきゃならないの!」
「蔵馬にどうしてほしいってんだよ! あーもう女の話ってなんでこう回りくどいんだよ」
「なにその言いぐさ! ムカつく!」
「聞いてやってんだから感謝しろっつの!」
「聞くなら聞く態度ってモンがあるでしょ!!」
「くそ…屁理屈…」
「続けていい? いいよね? ねぇ蔵馬って私のこといつも何か言ってる? 一緒にいて退屈とか言ってなかった?」
「言うわけねーだろ…あいつオメーの話するときだけ本当別人みてーなの」
「本当? つまんなくて眠いとかそういうことじゃないのかな、違うよね」
「あんだけ溺愛されててなんで自信なくすんだよ…」
「好きな人だったらいくら好きになってもらったって足りないくらいだもん」
「…くそ揃って歯の浮くセリフ吐きやがる…」
「蔵馬はどんなこと言うの? 私の話もするの?」
「あいつが言ったセリフをオレに言えってのかよ! 冗談きついぜ」
「なんでよー!」
「聞いてるこっちが赤面モンなんだよ! 察してくれマジで!!」
「えー、やだぁ蔵馬ったら…なんで私本人に言わないのかなぁ」
「本人に言えねーからオレらにとばっちりが来んだろ…」
「なによぉとばっちりって! 蔵馬が言ったこと螢子ちゃんに言ってみるくらいの努力しなさいよー」
「言えるか!!」
「女の子はいつでも待ってるんだから」
「…知るか!」
「蔵馬はいっつも待たせないでくれるもん…私の思ってることすぐ気づいてくれるの」
「じゃあ不満ねーだろ」
「無い物ねだりなのよ」
「ないならねだるなよ…」
「ないから欲しいんだもん! 幽助だって強い戦う相手欲しいでしょ!?」
「う」
「ほーら見なさい!」
「は、話それてんだろ! 何が言いてーんだよ結局!」
「だからぁ…一緒にいて寝ちゃうのって、つまんないのかなとか…」
「…オメー武術会のとき夜中までオレらの部屋にいなかったよな」
「いるわけないでしょ」
「あいつオレらが寝るまでぜってー起きてんの」
「なにそれ」
「で、朝イチで起きてる」
「それがなによ」
「他人に寝てるとこ見せねーんだよ。蔵馬ぐらいの奴なら寝込み襲われるなんてミスもしねーだろーけどな」
「…そうなの?」
「盗賊やってた名残だってよ。気配殺して歩くとか、人の後ろめたい部分探るのとかよ」
「…趣味悪ぅ」
「目に入れても痛くねー彼氏にそれを言うか」
「それって彼氏って言葉にかかる慣用句?」
「小難しいことはいい」
「ごまかした」
「いーっての! だからさ…つまり、あー…」
「私には気を許してるってこと?」
「蔵馬の寝てるところを殺れるっていったら、オメーくらいなんじゃねーか?」
「そんなことしないもん!」
「どんなことならやるってんだよ」
「え、えーと…」
「蔵馬にこの質問はもう二度としねー」
「蔵馬なんて言ったの? てゆうか私が寝てるときにどうこうって話が出たってこと?」
「うっ…ヤブヘビ」
「想像ついちゃう…やだぁもう」
「何考えてんだよオメーは!!」
「だって蔵馬の言いそうなことってもう結構わかっちゃうんだもん…私が困ること言うの好きだもん」
「…だろーな。ご愁傷さん」
「でもやっぱり嫌いになんかならないの…不思議」
「ヘイヘイ」
「不真面目! ちゃんと聞いてってば!」
「聞ーてますて」
「もう。…じゃあ、蔵馬、私といて退屈ってことじゃないよね」
「違うだろ」
「だよねー。あぁよかった! 不安だったんだぁ…」
「不安になんなよそんくらいでよ…あいつなら浮気も別れ話もしねーよ」
「それはわかんないよ…絶対の保証なんてないもん」
「いや、そりゃそーだけどよ…」
「でもいいんだ、今蔵馬が私のことだけ好きで、他の人なんて目に入らない…っていうなら、それで」
「あーその点は浦飯サンが保証する。安心しろ」
「うん。ありがとー。エヘヘ」
「んだよ気持ち悪ぃな」
「そう? エヘヘヘー」
「…いちおー、念のため言っとくが」
「なに?」
「オメーらにはきっとわかんねーだろうけど…オレらには戦うことって大事だからよ」
「うん」
「蔵馬も例外じゃねーと思うんだ。だからさ…オメーがいつでも一番ってわけにはきっといかねー」
「私より戦うほうが大事ってこと?」
「必ずそうだって言ってんじゃねーぞ? だからつまり…時と場合により、だ」
「…それって」
「…おう」
「なんか、悔しい」
「…妬いてんのかよ」
「妬いてないもん。そんなのに妬くなんてばかみたいっ!」
「………ほぉ。」
「な、なによその目は!」
「へぇー。へぇー。へぇえー。」
「ムカつく! ばかにしてる!!」
「…が妬いたっつったら、蔵馬の性格なら喜ぶんじゃね?」
「…戦うことに妬いたら、蔵馬が困るだけだもん。私だって蔵馬が戦うこと大事にしてるっていうのわかってるもの」
「………」
「怪我するかもしれないし、下手したら死んじゃうかもしれないからやめてって、本当はいつでも言いたいもん」
「…ふーん」
「我慢してるんだから。でも、戦いには私が首突っ込める余地はないから」
「蔵馬は蔵馬で考えもあるんだけどな。オメーやオフクロさん巻き込まないようによ」
「知ってるよ。…だから、やっぱり、つらかったりするじゃない。私が弱点になってる」
「蔵馬がそれがいいって思ってそうしてんだからさ…オメーが気にするとこじゃねー」
「そうだけど…」
「まぁ元気出せって」
「落ち込んでないもん」
「………」
「……なによ」
「いんや別に…」
「もう!」
「堂々としてろって、どう考えたってオメーは蔵馬の一番だから」
「わかってるもん!」
「おー、でかく出たじゃねーか」
「わかってるから、一回くらい戦うのなんかどうでもいいからってくらい気にして欲しいもん!」
「…ゼータクだな」
「恋する女の子は欲張りなんです!! 螢子ちゃんにも聞いてみれば!?」
「だーからぁ…なんで螢子が出てくんだよっつってんだろー!?」
「………!!」
「……!!」
「…!!」
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…なにが納得いかないって、一緒にいるってだけで惚気と愚痴の聞き役をいつの間にかやらされている幽助の立場が。
蔵馬にもちゃんにもやられている御様子、お気の毒さまです。