エスカーダ


初めてと手が触れ合うくらいそばに立ったとき、

初めての髪を撫でたとき、

初めてにキスをしたとき、

初めての身体を抱き寄せたとき、

なぜだか初めて、という気がしなかったのはなぜだろう。

ずっと昔から知っていたような気にもなる、不思議な人だな…とずっと思っていた。

ずっと昔とはいっても、妖狐時代のことは含まないだろうけれど。

顔とか容姿…ではなくて、

性格…? でもなくて、

声、でもない、気がする、なにがこういう気持ちをわき起こさせるんだろう。



ある日、

と一緒に都心にあるタワーの展望室に行ってみよう、なんて話が急に出て、

ふたりでエレベータに乗る切符を買った。

ほかに乗り合わせる人のいない、つかの間の密室。

どうしてこういう空間にいるだけで、との距離を狭めてやろうなんてヨコシマな気持ちが目覚めるのか。

ガラス張りのエレベータ、外から見ている人もいるだろうその中で、

を腕の中に閉じこめて唇を奪った。

最初は嫌がって抵抗しているその腕から次第に力が抜けていって、

すとんと引力に引きずられるまま落ちるその瞬間が、オレはとても好き。

今、君はオレだけのもの。

扉が開く寸前にやっと少し離れる、そのスリルも好きだ。

ただ、はそのあと決まって少し拗ねてしまうから、御機嫌伺いとおもてなしは必須。

案の定は決まり悪い顔で目をそらし、すたすたと先にエレベータを出ていった。

の後を追ってエレベータを出たそのとき、ふと、鼻腔をかすめた甘い香り。

これか、とやっと悟った。

からただよう、かすかなこの香り。

これがオレの知るの印象だったのだ。

目を閉じていてもを感じることができるのは。

自分でも知らぬまに覚えた君の証。

オレを誘って駆り立てる、ほんの少し毒をも含むような、君の証。


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…短っ!!